TOKYO PRO Marketとは
TOKYO PRO Market(トウキョウ・プロ・マーケット)とは、東京証券取引所が運営する特定投資家等を対象としたプロ投資家向けの株式市場です。東京証券取引所には、プライム市場、スタンダード市場、グロース市場という一般投資家も参加する3つの市場がありますが、TOKYO PRO Marketはこれらとは異なる位置付けの市場です。
最大の特徴は、一般市場のような株主数や流通株式数、利益などによる形式的な数値基準を設けていないことです。一方で、上場審査そのものが存在しないわけではありません。J-Adviserと呼ばれる専門家が企業の上場適格性を調査・確認し、上場後も企業をサポートする仕組みが採用されています。
TOKYO PRO Marketは、単純に「上場基準が緩い市場」ではありません。特定投資家等を対象にすることで、一般市場とは異なる柔軟な上場制度を採用している市場と理解することが重要です。
TOKYO PRO Marketの読み方と略称
「TOKYO PRO Market」は、英語表記をそのまま使った市場名称です。日本語では「トウキョウ・プロ・マーケット」と読みます。
略称として「TPM」が使われることがあります。株式市場や企業の上場に関するニュース、東京証券取引所の資料などでTPMという表記を見かけた場合、基本的にはTOKYO PRO Marketを指しています。
TOKYO PRO Marketが作られた背景
TOKYO PRO Marketは、一般投資家向けの株式市場とは異なるプロ投資家向け市場を設けるという考え方から生まれました。
日本では2008年の金融商品取引法改正によって、一定の知識や経験、資産などを持つプロ投資家を主な対象とする市場を開設できる制度が整備されました。
この制度を背景として、東京証券取引所グループとロンドン証券取引所の共同出資により株式会社TOKYO AIM取引所が設立され、2009年6月にTOKYO AIMが開設されました。その後、2012年7月に現在のTOKYO PRO Marketへ名称変更され、東京証券取引所が市場運営を行う現在の形になっています。
制度設計では、ロンドン証券取引所のAIM市場で採用されている仕組みが参考にされており、その代表的なものがJ-Adviser制度です。
TOKYO PRO Marketの最大の特徴
TOKYO PRO Marketを理解するうえで、特に重要なのは次の3点です。
- 特定投資家等を対象としている
- 一般市場のような形式的な数値基準がない
- J-Adviser制度を採用している
この3つはそれぞれ独立した特徴ではなく、相互に関係しています。プロ投資家を対象とする市場だからこそ、一般市場とは異なる開示制度や上場制度を採用でき、その中でJ-Adviserが企業と市場の間をつなぐ役割を果たしています。
一般市場のような形式基準がない
TOKYO PRO Marketの特徴としてよく挙げられるのが、形式基準がないことです。
プライム市場、スタンダード市場、グロース市場などの一般市場では、上場するために株主数や流通株式数、流通株式時価総額、利益などについて一定の基準を満たす必要があります。
これに対してTOKYO PRO Marketでは、一般市場のような形式的な数値基準を設けていません。そのため、企業規模や株主数などの数値だけを理由として一律に上場できないと判断される仕組みではありません。
ただし、ここで注意しなければならないのが、「形式基準がない」ことと「審査がない」ことは別だという点です。
TOKYO PRO Marketには一般市場のような形式的な数値基準はありませんが、企業が市場に適しているかどうかを確認する仕組みは存在します。J-Adviserによる上場適格性の調査・確認が行われるため、「誰でも簡単に上場できる市場」と考えるのは適切ではありません。
特定投資家とは
TOKYO PRO Marketを理解するためには、特定投資家という言葉も押さえておく必要があります。
特定投資家とは、金融商品取引法上、一般投資家とは区別される投資家です。一般的には「プロ投資家」と呼ばれることもあります。
特定投資家には、一定の法人や金融機関などが該当するほか、一定の条件を満たして個人が特定投資家へ移行できる制度もあります。
このような投資家は、一般投資家と比較して金融商品に関する知識や経験、資産規模などが大きいと考えられるため、金融商品取引法では一部の投資家保護規制について異なる取り扱いがされています。
なぜプロ投資家向けなのか
金融市場では、すべての投資家に対して同じ規制や情報開示を求める必要があるとは限りません。
投資判断に必要な知識や経験を持つプロ投資家を対象とするのであれば、一般投資家向け市場とは異なる開示や上場の仕組みを採用することが可能になります。
TOKYO PRO Marketは、まさにこの考え方を取り入れた市場です。
J-Adviser制度とは
J-Adviser(ジェイ・アドバイザー)とは、TOKYO PRO Marketに上場する企業について、上場前の調査・確認や上場後の指導・助言などを行う制度です。
J-Adviserは、東京証券取引所から資格を得た金融商品取引業者などが務めます。企業はJ-Adviserを選定し、そのサポートを受けながら上場準備を進めます。
J-Adviserの主な役割
- 企業の上場適格性について調査・確認する
- 上場準備について指導・助言する
- 上場申請に関する手続きを支援する
- 上場後の情報開示などについて指導・助言する
- 市場のルールに沿った企業運営をサポートする
つまり、J-Adviserは上場時だけ関係する存在ではありません。企業がTOKYO PRO Marketの上場会社として適切に運営されるよう、上場前後を通じて関わることが大きな特徴です。
TOKYO PRO Marketの上場基準
TOKYO PRO Marketには、一般市場のような形式的な数値基準はありませんが、企業として市場に適しているかを判断するための上場適格性要件があります。
主な確認事項には、次のようなものがあります。
- 東京証券取引所の市場にふさわしい会社であること
- 事業を公正かつ忠実に遂行していること
- 適切なコーポレート・ガバナンスが整備されていること
- 内部管理体制が企業の規模や成熟度に応じて整備されていること
- 企業内容やリスク情報などを適切に開示できる体制があること
- 反社会的勢力との関係など、投資者保護の観点から問題がないこと
このため、TOKYO PRO Marketでは「売上高がいくらあるか」「株主が何人いるか」といった数字だけで企業を判断するのではなく、事業の健全性、経営管理体制、情報開示能力などを総合的に確認することになります。
TOKYO PRO Marketの開示制度
TOKYO PRO Marketでは、一般市場とは異なる情報開示制度が採用されています。
上場会社は、投資家が投資判断を行うために必要な企業情報を開示する必要があります。代表的なものとして、上場時の特定証券情報や、上場後の発行者情報などがあります。
一方で、一般市場と比較すると、四半期開示や内部統制報告書が任意となっている点が特徴です。
| 項目 | TOKYO PRO Market | 一般市場 |
|---|---|---|
| 主な投資家 | 特定投資家等 | 一般投資家を含む幅広い投資家 |
| 形式的な数値基準 | なし | 市場ごとに設定 |
| 四半期開示 | 任意 | 必須 |
| 内部統制報告書 | 任意 | 必須 |
| J-Adviser | 必要 | なし |
これは「TOKYO PRO Marketでは情報開示が不要」という意味ではありません。プロ投資家向け市場として必要な情報開示は求められており、投資家が企業を判断するための情報を適切に提供することが重要です。
TOKYO PRO Marketに上場するメリット
一般市場とは異なる上場の選択肢になる
TOKYO PRO Marketの大きなメリットは、一般市場とは異なる制度によって上場を目指せることです。
一般市場では株主数や流通株式などの形式基準があるため、事業そのものに問題がなくても、数値基準を満たせないことを理由に上場が難しくなる場合があります。
TOKYO PRO Marketではそのような形式基準がないため、企業の実態を重視した上場を目指すことができます。
企業の信用力や認知度向上につながる可能性がある
東京証券取引所への上場によって、企業の存在や事業内容が市場を通じて広く知られるようになる可能性があります。
また、上場準備に伴って内部管理体制や情報開示体制を整備することは、取引先や金融機関などとの関係を構築するうえでもプラスに働く場合があります。
ただし、TOKYO PRO Marketへの上場だけで企業の信用力や企業価値が自動的に高まるわけではありません。実際の企業価値は、事業内容や業績、成長性、財務状況などによって判断されます。
一般市場へのステップとして利用できる
TOKYO PRO Marketに上場した企業が、その後の成長に伴ってプライム市場、スタンダード市場、グロース市場などへの上場を目指すことがあります。
TOKYO PRO Marketへの上場準備では、内部管理体制やコーポレート・ガバナンス、情報開示体制などを整える必要があります。その経験が、将来的な一般市場への上場準備につながる可能性があります。
TOKYO PRO Marketから一般市場へ移行することは可能ですが、自動的に移行できるわけではありません。移行先となる市場の上場基準を満たす必要があります。
TOKYO PRO Marketのデメリットと注意点
一般投資家は自由に買付けできない
投資家側から見た最大の注意点は、一般市場のように誰でも自由に買付けできるわけではないことです。
TOKYO PRO Marketは特定投資家等を主な対象としているため、個人投資家が一般市場の銘柄と同じ感覚で購入できる市場ではありません。
ただし、一般投資家による売却まで一律に禁止されているわけではありません。買付けと売却では取り扱いが異なるため、「一般投資家はTOKYO PRO Marketの株式を一切売買できない」と理解するのも正確ではありません。
流動性に注意が必要
流動性とは、金融商品を希望する価格に近い条件で、どれだけスムーズに売買できるかを表す概念です。
TOKYO PRO Marketは投資家層が限定されているため、一般市場と比較すると銘柄によっては売買が活発になりにくい場合があります。
そのため、株価が存在していても、実際に希望する価格で売買できるとは限りません。投資を検討する場合には、株価だけでなく売買状況や出来高なども確認することが重要です。
情報量が一般市場と異なる場合がある
TOKYO PRO Marketでは、一般市場とは異なる開示制度が採用されています。四半期開示や内部統制報告書が任意であるため、投資家が企業を分析するときには、一般市場の企業と同じ情報量が提供されるとは限りません。
企業の業績や財務状況を確認するときには、公開されている資料を自分で確認し、必要な情報を整理することが大切です。
TOKYO PRO MarketとIPOの違い
IPOとは「Initial Public Offering」の略で、日本語では「新規株式公開」といいます。一般的には、未上場企業が証券取引所へ上場し、投資家が市場で株式を売買できるようになることを指します。
TOKYO PRO Marketへの上場も広い意味ではIPOとして扱われる場合がありますが、一般市場へのIPOとは制度上の違いがあります。
| 項目 | TOKYO PRO Market | 一般市場へのIPO |
|---|---|---|
| 投資家 | 特定投資家等 | 一般投資家を含む |
| 形式基準 | なし | あり |
| J-Adviser | 制度上必要 | 一般市場にはない |
| 市場の目的 | プロ投資家向けの資金調達・投資機会など | 幅広い投資家からの資金調達など |
したがって、「TOKYO PRO Marketへの上場」と「一般市場へのIPO」は、どちらも企業にとって重要な上場手段ですが、対象となる投資家や制度設計は大きく異なります。
TOKYO PRO Marketへの上場の流れ
企業がTOKYO PRO Marketへの上場を目指す場合、J-Adviserを中心に上場準備を進めます。
- J-Adviserを選定する
- J-Adviserと契約を締結する
- 企業の事業内容や内部管理体制などについて調査・確認を受ける
- 上場申請に必要な書類を準備する
- 東京証券取引所へ上場申請を行う
- 上場承認を受ける
- 株式をTOKYO PRO Marketへ上場する
TOKYO PRO Marketでは、J-Adviserによる事前の確認を経たうえで、上場申請から上場承認までの期間が10営業日とされています。ただし、この10営業日は企業が上場を検討し始めてから上場するまでの期間ではありません。J-Adviserとの準備や調査などには別途時間が必要です。
TOKYO PRO Marketと東証の3つの一般市場との違い
現在の東京証券取引所では、一般投資家向けの市場としてプライム市場、スタンダード市場、グロース市場が設けられています。これらに加えて、プロ投資家向けのTOKYO PRO Marketがあります。
| 市場 | 主な特徴 |
|---|---|
| プライム市場 | 高い流動性やガバナンス水準などを備えた企業向け |
| スタンダード市場 | 一定の規模・流動性・ガバナンス水準を備えた企業向け |
| グロース市場 | 高い成長可能性を持つ企業向け |
| TOKYO PRO Market | 特定投資家等を対象とするプロ向け市場 |
特に大きな違いは、TOKYO PRO Marketだけが特定投資家等を主な対象としていることです。一般市場は幅広い投資家による売買を前提としているのに対し、TOKYO PRO Marketはプロ投資家を対象とすることで、一般市場とは異なる上場・開示制度を採用しています。
TOKYO PRO Marketで覚えておきたいポイント
重要な5つのポイント
- 東京証券取引所が運営するプロ投資家向け市場である
- 主な投資家は特定投資家等である
- 一般市場のような形式的な数値基準がない
- J-Adviserが上場前後の企業をサポートする
- 非上場企業と一般市場の間にある選択肢として活用される場合がある
「形式基準がない」と「上場基準がない」は同じではありません。 TOKYO PRO Marketでは、株主数や流通株式数などによる形式的な数値基準は設けられていませんが、企業として市場に適しているかどうかはJ-Adviserによって確認されます。
まとめ
TOKYO PRO Marketは、東京証券取引所が運営する特定投資家等を対象としたプロ投資家向けの株式市場です。
一般市場のような株主数や流通株式数などの形式的な数値基準を設けていないことが大きな特徴であり、企業の規模だけではなく、事業内容や経営管理体制、コーポレート・ガバナンス、情報開示体制などを踏まえて上場適格性が確認されます。
また、J-Adviser制度を採用していることもTOKYO PRO Marketならではの特徴です。J-Adviserは上場前の調査・確認だけでなく、上場後の企業に対する指導や助言も行います。
投資家にとっては、一般市場とは異なり、特定投資家等を主な対象としていることや、銘柄によっては流動性が低くなる可能性があることが重要な注意点です。
このようにTOKYO PRO Marketは、単純に「上場しやすい市場」と捉えるのではなく、プロ投資家を対象とすることで、一般市場とは異なる柔軟な上場制度を実現している市場と考えると、その位置付けを正しく理解できます。
