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トレード用語解説 約16分 の読了目安

ATR

別名・略称
真の値幅の平均 Average True Range アベレージ・トゥルー・レンジ

ATRとは

ATR(Average True Range)とは、一定期間における価格の値動きの大きさ、つまりボラティリティ(変動の大きさ)を測定するテクニカル指標です。日本語では「平均真の値幅」と呼ばれます。

ATRは、J・ウェルズ・ワイルダー(J. Welles Wilder Jr.)によって考案された指標の一つで、1978年に発表されたテクニカル分析手法として知られています。RSIやADX、パラボリックSARなど、現在でも広く利用されている指標と同じく、ワイルダーの考案した代表的なテクニカル指標です。

ATRの大きな特徴は、価格が上昇しているのか下落しているのかではなく、「どの程度大きく動いているのか」を測定する点にあります。そのため、ATRが上昇しているからといって「買い」と判断したり、低下しているから「売り」と判断したりするものではありません。

相場が大きく動いているときにはATRが上昇し、値動きが小さくなるとATRは低下する傾向があります。この性質から、トレードでは相場のボラティリティを把握するだけでなく、損切り幅の設定、ポジションサイズの調整、ブレイクアウトの判断などにも利用されます。

ATRのポイント

ATRは「価格がどちらへ動くか」を予測する指標ではなく、「価格がどれくらい動いているか」を測定する指標です。ATRが高いほど値動きが大きく、低いほど値動きが小さいと考えると理解しやすいでしょう。

ATRが測定しているもの

ATRを理解するためには、まず「True Range(TR)」という考え方を知る必要があります。True Rangeは、日本語では「真の値幅」などと呼ばれ、単純な高値と安値の差だけでは捉えきれない価格変動を考慮した値幅です。

通常のローソク足では、その期間の高値と安値の差を見れば値幅を確認できます。しかし、前の期間の終値から大きく窓を開けて始まった場合、高値と安値だけを見ていると、その期間に発生した実際の価格変動を十分に捉えられないことがあります。

そこでTRでは、現在の高値と安値だけでなく、前の期間の終値との価格差も考慮します。

True Rangeの3つの値幅

現在の期間におけるTrue Rangeは、次の3つの値のうち最も大きいものを採用します。

  1. 現在の高値 − 現在の安値
  2. 現在の高値 − 前期間の終値の絶対値
  3. 現在の安値 − 前期間の終値の絶対値

ここでいう「絶対値」とは、マイナスの符号を取り除いた数値のことです。したがって、価格が上方向に大きく離れた場合でも、下方向に大きく離れた場合でも、その値幅を正の数として扱います。

たとえば、前日の終値が100円で、当日の高値が110円、安値が108円だったとします。この場合、当日の高値と安値の差は2円ですが、前日の終値から当日の高値までは10円離れています。

このケースでは、単純な「高値−安値」だけを見ると2円の値幅に見えます。しかし、前日の終値から大きく価格が離れていることを考慮すると、実際には10円という大きな価格変動が発生しています。TRではこのような値動きも拾えるようになっています。

比較する値計算方法意味
現在の高値 − 現在の安値現在の期間内の値幅
|現在の高値 − 前期間の終値|前期間の終値から高値までの変動幅
|現在の安値 − 前期間の終値|前期間の終値から安値までの変動幅

この3つを比較して最大の値をTRとし、それを一定期間にわたって平均化したものがATRです。

ATRの計算方法

一般的なATRでは、ワイルダーが考案した平滑化方法が使用されます。現在広く利用されているATRでは、初期値を一定期間のTRの平均として求め、その後は前のATRと現在のTRを利用して更新していきます。

代表的な計算式は次のとおりです。

ATR = {前期間のATR ×(n − 1)+現在のTR}÷ n

「n」はATRの期間を表します。もっとも一般的な設定として14期間がよく使用されます。

例えば14期間ATRの場合、最初のATRを14期間分のTRの平均から求め、その後は新しいTRが加わるたびに、上記の計算によってATRを更新していきます。これによって、単純移動平均のように過去の値を完全に切り捨てるのではなく、過去の値動きの影響を残しながら現在のボラティリティを反映できます。

期間設定について

ATRは14期間が代表的ですが、必ず14に固定する必要はありません。短い期間を設定すると直近のボラティリティに敏感になり、長い期間を設定すると値動きの変化をより緩やかに捉えます。

ATRの数値は何を意味するのか

ATRの数値は、その銘柄・市場・時間足における平均的な値動きの大きさを表します。

例えば、ある通貨ペアの1時間足でATRが0.0010だった場合、単純化すれば、直近の一定期間において1本あたりの値動きが平均して0.0010程度だったことを示します。

ただし、ATRの数値そのものを見て「大きい」「小さい」と判断する際には注意が必要です。ATRは価格の絶対的な値幅を表すため、価格水準が異なる銘柄同士をそのまま比較することには向いていません。

例えば、価格が100円の銘柄でATRが2円なのと、価格が10,000円の銘柄でATRが20円なのとでは、どちらもATRの数値だけを見ると後者のほうが大きく見えます。しかし、価格に対する変動率で考えれば、どちらも2%です。

このように、ATRは絶対的な値幅を測定する指標であり、異なる価格水準の銘柄を比較する場合には、ATRを終値で割ってパーセント表示した「ATRP(Average True Range Percent)」などを利用する方法があります。

ATRとATRPの違い

項目ATRATRP
意味平均的な値幅価格に対する平均値幅の割合
表示価格単位パーセント
銘柄間の比較そのままでは比較しにくい比較しやすい
主な用途値幅・損切り幅・ボラティリティの把握異なる価格水準の銘柄のボラティリティ比較

ATRPはATR ÷ 終値 × 100で算出できます。ATRを価格に対する割合へ変換することで、価格水準の異なる銘柄同士でもボラティリティを比較しやすくなります。

ATRが上昇するとき

ATRが上昇しているときは、一般的に相場の値動きが大きくなっていることを意味します。

例えば、それまで一定の範囲で小さく動いていた相場で、突然大きな陽線や陰線が出現すると、その期間のTRが大きくなります。大きな値幅が続けば、ATRも徐々に上昇していきます。

重要なのは、ATRの上昇そのものは上昇相場を意味しないということです。

大きな陽線が続いてもATRは上昇しますし、大きな陰線が続いてもATRは上昇します。つまり、ATRは「買いの勢い」と「売りの勢い」を区別せず、あくまで価格変動の大きさを捉えています。

そのため、ATRを見るときは価格チャートと組み合わせることが重要です。価格が上昇しながらATRも上昇しているなら、上昇方向への値動きが拡大している可能性があります。一方、価格が下落しながらATRが上昇しているなら、下落方向への値動きが拡大している可能性があります。

ATRが低下するとき

ATRが低下しているときは、一般的に相場の値動きが小さくなっていることを意味します。

高値と安値の幅が小さいローソク足が続いたり、大きな価格変動が徐々に収まったりすると、TRが小さくなり、ATRも低下していきます。

特にATRが長期間にわたって低い状態を続けている場合、相場がレンジ相場や持ち合いに入っている可能性があります。レンジ相場とは、価格が一定の上限と下限の間を行き来し、明確な方向性を示しにくい状態です。

ただし、ATRの低下だけで「このあと必ず大きく動く」と判断することはできません。低ボラティリティの状態が長く続くこともあり、そこから上昇へ向かう場合もあれば、下落へ向かう場合もあります。

低ATR=ブレイクアウト確定ではない

ATRが低下しているときは値動きが収縮している可能性がありますが、そこから価格が必ず大きく動くとは限りません。ATRは「動きの大きさ」を測る指標であり、次の方向を予測する指標ではないため、価格の位置やトレンドサポートレジスタンスなどと組み合わせて判断する必要があります。

ATRを使ったトレードへの応用

損切り幅の設定

ATRの代表的な利用方法の一つが、損切り幅を相場のボラティリティに合わせて調整することです。

例えば、ATRが100円の銘柄で「ATRの1.5倍」を基準にするなら、150円程度の値幅を一つの目安として損切り幅を検討できます。

固定幅で「必ず100円下に損切りを置く」という方法では、相場の値動きが大きくなったときに、通常のノイズだけで損切りにかかってしまう可能性があります。

一方、ATRを利用すれば、ボラティリティが大きい相場では損切り幅を広くし、ボラティリティが小さい相場では狭くするというように、相場環境に応じて損切り幅を調整することができます。

ただし、損切り幅を広げる場合には、単純にポジションサイズまで同じにしてしまうと1回のトレードで負う金額的なリスクが大きくなります。そのため、ATRを利用したリスク管理では、損切り幅とポジションサイズをセットで考えることが重要です。

ポジションサイズの調整

ATRはポジションサイズの調整にも利用できます。

例えば、同じ金額のリスクを許容するとして、ATRが大きい銘柄では損切りまでの値幅が広くなるためポジションサイズを小さくし、ATRが小さい銘柄ではポジションサイズを大きくする、といった考え方ができます。

これは「ボラティリティ・ポジションサイジング」と考えることもできます。相場ごとの値動きの大きさを考慮することで、単純に毎回同じ数量を取引するよりも、リスクを一定に近づけることが可能になります。

ブレイクアウトの確認

ATRはブレイクアウトを見る際にも利用できます。

価格が狭い範囲で推移し、ATRが低い状態から上昇へ転じた場合、相場の値動きが拡大している可能性があります。特に、価格が重要な高値や安値を突破すると同時にATRが上昇している場合には、単なる小幅な値動きではなく、ボラティリティを伴った動きになっているかを確認する材料になります。

ただし、ATRは方向性を持たないため、ATRの上昇だけを根拠にブレイクアウトの方向を決めることはできません。価格がどの水準を突破したのか、出来高が増えているのか、上位時間足ではどのようなトレンドになっているのかなど、複数の要素を確認する必要があります。

ATRの期間設定

ATRには「期間」という設定があります。これは、どの程度の過去データを使ってボラティリティを計算するかを決めるものです。

期間特徴向いている用途
短い期間直近の値動きに敏感短期的なボラティリティの変化を確認
14期間バランスが取りやすい代表的な設定一般的なボラティリティ分析
長い期間変化が緩やか中長期的なボラティリティを確認

短い期間を設定すると、急激な値動きに対してATRが素早く反応します。その一方で、一時的な急騰や急落にも反応しやすく、ATRの変化が大きくなりやすいという特徴があります。

長い期間を設定すると、短期的な値動きに振り回されにくくなる一方、相場環境が急激に変化した場合でもATRの反応が遅くなります。

そのため、どの期間が最適なのかは一律ではありません。デイトレード、スイングトレード、長期投資など、取引スタイルや分析する時間軸に合わせて設定を検討する必要があります。

ATRとボラティリティの関係

ATRを理解するうえで重要なのが、ボラティリティとの関係です。

ボラティリティとは、簡単にいえば価格がどの程度大きく変動しているかを示す概念です。ボラティリティが高ければ価格は大きく動きやすく、低ければ価格は比較的狭い範囲で動きやすくなります。

ATRは、このボラティリティを「価格の値幅」という形で捉える指標です。

そのため、ATRが上昇している局面では「ボラティリティが拡大している」、ATRが低下している局面では「ボラティリティが縮小している」と考えることができます。

ただし、ボラティリティにはさまざまな測定方法があります。ATRはローソク足の値幅を中心に測定するため、標準偏差などを利用したボラティリティ指標とは計算方法も性質も異なります。

ATRと他のテクニカル指標との違い

ATRとRSIの違い

RSIは価格変動の強さを基に、買われすぎ・売られすぎなどを判断するために利用されるモメンタム系のオシレーターです。一方、ATRは値動きの大きさを測定します。

つまり、RSIは「上昇・下落の勢いをどのように捉えるか」に重点があり、ATRは「どれくらい大きく動いているか」に重点があります。

ATRとADXの違い

ADXもワイルダーによって考案された指標ですが、ATRとは目的が異なります。ADXはトレンドの強さを測定するために利用されるのに対し、ATRは値動きの大きさを測定します。

したがって、「ATRが高い=強いトレンド」とは限りません。価格が上下に激しく振れるだけの相場でもATRは上昇しますが、必ずしも明確なトレンドが形成されているとは限りません。

ATRとボリンジャーバンドの違い

ボリンジャーバンドもボラティリティを分析する代表的な指標ですが、標準偏差を利用して価格の変動幅を捉える点でATRとは異なります。

ATRはTrue Rangeを基に値幅を測定するため、前期間の終値から大きく離れて始まるような値動きも計算に反映できます。一方、ボリンジャーバンドは移動平均線を中心として標準偏差によるバンドを表示するため、価格が移動平均からどの程度離れているのかを視覚的に把握しやすいという特徴があります。

指標主に見るもの方向性
ATR値動きの大きさなし
RSIモメンタム・買われすぎ・売られすぎ間接的に判断
ADXトレンドの強さなし
ボリンジャーバンド価格の変動幅・移動平均からの乖離バンド自体には方向性なし

ATRを使うときの注意点

ATRだけでは売買方向を判断できない

最も重要な注意点は、ATRには上昇・下落の方向性を示す機能がないことです。

ATRが急上昇していても、それが買いの勢いによるものなのか、売りの勢いによるものなのかはATRだけでは分かりません。

したがって、ATRはトレンド系指標やオシレーター、価格チャートなどと組み合わせて使用するのが基本です。

ATRの数値だけで銘柄を比較しない

ATRは価格の絶対的な値幅を表すため、価格水準が異なる銘柄をATRの数値だけで比較するのは適切ではありません。

異なる銘柄のボラティリティを比較したい場合は、ATRPのように価格に対する割合へ変換する方法が適しています。

ATRが高いから危険とは限らない

ATRが高い相場では値動きが大きくなっているため、1回のトレードで価格が大きく変動する可能性があります。しかし、ATRが高いこと自体が「取引してはいけない」という意味ではありません。

むしろ、ATRを利用して損切り幅やポジションサイズを適切に調整することで、ボラティリティの高い相場でもリスクを管理しながら取引する考え方があります。

ATRはリスクそのものではない

ATRは値動きの大きさを示す指標であり、損失額やリスク額を直接示すものではありません。実際のリスクは、ATRだけでなく、ポジションサイズ、レバレッジ、損切り位置、取引数量などによって変化します。

ATRのメリット

  • 相場のボラティリティを数値で把握できる
  • 大きな値動きが発生している局面を確認しやすい
  • 損切り幅を相場環境に合わせて調整する材料になる
  • ポジションサイズを決める際の参考になる
  • 時間足や銘柄を問わず応用しやすい
  • 価格のギャップを考慮した値幅を測定できる

ATRのデメリット

  • 価格が上昇するのか下落するのかは判断できない
  • ATRの数値だけでは売買シグナルにならない
  • 価格水準の異なる銘柄同士を単純比較しにくい
  • 急激な価格変動によって一時的にATRが大きく上昇することがある
  • 期間設定によって反応速度が変わる
  • 低ATRから大きな値動きが発生する場合でも、その方向までは予測できない

ATRの見方を整理する

ATRの状態相場の特徴考えられる状況
上昇値動きが拡大ボラティリティ上昇、トレンドや急変動の発生
低下値動きが縮小レンジ、持ち合い、相場の沈静化
高水準大きな値幅が発生急騰・急落などによる高ボラティリティ
低水準小さな値幅が継続低ボラティリティ、相場の収縮

ただし、これらはあくまでATRから読み取れる「値動きの状態」です。ATRの状態だけから、次に価格が上昇するか下落するかを断定することはできません。

ATRを実際の分析で利用する考え方

ATRを実際のトレードに取り入れる場合、単純に「ATRが上がったら買う」「ATRが下がったら売る」という使い方をするのではなく、現在の相場がどの程度動きやすい状態なのかを把握するための補助指標として考えると分かりやすくなります。

例えば、レンジ相場でATRが長期間低下している場合には、現在の相場が小さな値幅の中で推移していることを確認できます。その後、価格がレンジの上限や下限を突破し、同時にATRが上昇してきたのであれば、値動きの拡大を伴ったブレイクアウトになっているかを検討できます。

また、すでにポジションを保有している場合には、ATRを利用して現在の相場の値動きに対して損切り位置が近すぎないか、あるいはポジションサイズが大きすぎないかを確認することもできます。

このようにATRは、エントリーのタイミングそのものを決めるというより、「今の相場はどれくらい動いているのか」という視点をトレードに加えるための指標として非常に使いやすい特徴があります。

ATRのまとめ

ATR(Average True Range)は、一定期間における価格の平均的な値動きの大きさを測定するボラティリティ指標です。

現在の高値と安値だけでなく、前期間の終値との価格差も考慮したTrue Rangeを算出し、それを一定期間にわたって平滑化することで、相場の値動きの大きさを捉えます。

一般的には14期間が広く利用され、ATRが上昇している場合はボラティリティが拡大している可能性があり、ATRが低下している場合は値動きが縮小している可能性があります。

特にATRは、損切り幅の設定、ポジションサイズの調整、ボラティリティの把握、ブレイクアウト後の値動きの確認など、リスク管理と相性のよい指標です。

一方で、ATRは方向性を示す指標ではないため、ATRが上昇したから買い、低下したから売りという単独の判断には適していません。価格のトレンドやサポート・レジスタンス、出来高、他のテクニカル指標などと組み合わせることで、ATRが示している「値動きの大きさ」をより実践的に活用できます。